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    未来への共創:地域の中堅・中核企業の挑戦を
    後押しする支援プラットフォーム

未来への共創:
地域の中堅・中核企業の挑戦を
後押しする支援プラットフォーム

地域の挑戦を、
日本の新しい地平線に。

地域経済の要、中堅・中核企業を支える
連携ネットワーク。
アドバイザリーやネットワーキングなど、
分野を超えた多様な知見により
地域からの挑戦を後押しし、
日本全体に新たな活力をもたらします。

地域の中堅・中核企業支援
プラットフォーム事業(本事業)について

経済産業省では、地域経済への波及効果が大きく、
高い成長が見込まれる地域経済の牽引役として、
地域未来牽引企業を選定・支援してきました。

令和6年、地域の中堅・中核企業
さらなる成長支援のため、
新規事業展開等を支援する地域・テーマごとの
支援プラットフォームを全国各地に立ち上げます。

具体的には、地域企業の皆様がご参加いただける
地域・テーマ別のプラットフォームを全国に展開し、
セミナ―の実施、支援機関等との
ネットワーキング支援等を行います。

本WEBサイトでは、地域企業の皆様を対象にした
日本各地のプラットフォームの支援プログラムを紹介するほか、
各プラットフォームにて開催される
イベント・セミナー情報を随時掲載します。
地域企業の皆様のプラットフォームへの
ご参加をお待ちしております。


支援プログラムの対象企業
(地域の中堅・中核企業)について

各プラットフォームの支援プログラムの対象となる企業は
地域未来牽引企業のうち、
以下いずれかを満たす企業です。
※みなし大企業を除く
(イベント・セミナーにはその他の企業や支援機関の皆様も
ご参加いただける場合がございます。
詳細は各プラットフォームにお問合せください)

地域未来牽引企業
  1. ①直近3年間のうちいずれかの年度で、年間売上⾼が100億円以上
  2. ②直近3年間のうちいずれかの年度で、従業員数が中小企業基本法に定める常時従業員数(製造業その他: 300 人、卸売業・サービス業: 100 人、小売業: 50 人)を超え、2,000 人以下
  3. ③直近年度の年間売上⾼が70億円以上かつ前年度からの
    売上⾼成⻑率が10%以上

※ みなし⼤企業は以下のいずれかに該当する事業者を指します。

  1. ①同⼀の⼤企業が、株式を1/2以上所有している
  2. ②複数の⼤企業が、株式を2/3以上所有している
  3. ③⼤企業の役員または職員を兼ねている者が、
    役員総数の1/2以上を占めている
  4. ④①〜③に該当する企業が、株式の全てを所有している
    ※孫会社を除く
  5. ⑤①〜③に該当する法⼈の役員⼜は職員を兼ねている者が、
    役員総数の全てを占めている ※孫会社を除く

ここでいう⼤企業とは、常時従業員数が2,000⼈を
超えるものとする。

記事

【参加者募集中】地域の中堅・中核企業支援プラットフォーム事業
初年度報告会 全国シンポジウム&ネットワーキング

【イベント名】 地域の中堅・中核企業支援プラットフォーム事業初年度報告会 全国シンポジウム&ネットワーキング地域と共に成長する~中堅・中核企業の新規事業支援と連携の成功事例~ 【開催趣旨】 本シンポジウムでは、全国の中堅企業、地域の支援機関をお招きし、本年度行ってきた事業によってどのような好事例が生まれたか、ご紹介させていただきます。また、トークセッションにて、地域との連携やオープンイノベーション、多様なステークホルダーとの協働による企業成長について、取組やノウハウをご紹介し、今後の中堅企業や支援機関のあり方について方向性を提示します。加えて、地域の中堅・中核企業や支援機関が一堂に会し、ネットワークを構築する場としても活用いただけます。共に未来を切り拓く成長意欲の高い皆様のご参加をお待ちしております。 【開催概要】 ■開催日時:2025年2月12日(水)15:00-19:00(開場:14:15)■会場:大手町プレイス ホール&カンファレンス 2F Hall B(〒100-0004 東京都千代田区大手町二丁目3番1号 大手町プレイス (イーストタワー) 2F)■定員:150名■参加費:無料※交流会は有料 【参加対象者】中堅・中核企業の経営者・新事業展開推進者、支援機関(地銀、商工会、教育・研究機関等)、行政関係者 等 【プログラム】15:00-15:10:開会挨拶15:10-15:20:プラットフォーム事業の概要説明15:20-16:20:プラットフォーム事業の取組紹介 登壇者:プラットフォーム運営事業者16:20-16:30:休憩16:30-17:20:トークセッション「未来への共創(地域との連携やオープンイノベーション、多様なステークホルダーとの協働による企業成長)」 登壇者: シナノケンシ株式会社 代表取締役社長 金子行宏 ヤマモリ株式会社 常務執行役員 前田博文 株式会社北海道共創パートナーズ 代表取締役社長 岩崎俊一郎 PwCコンサルティング合同会社 パートナー 大橋歩 名商大ビジネススクール教授    慶應義塾大学名誉教授 磯辺剛彦17:20-17:30:閉会挨拶18:00-19:00:交流会(ご希望者様のみ) 立食形式/軽食提供有  会場:2F Hall A 参加費:3,000円(税込) 【出演者紹介】 シナノケンシ株式会社代表取締役社長金子行宏 ヤマモリ株式会社常務執行役員前田博文 PwCコンサルティング合同会社パートナー大橋歩 株式会社北海道共創パートナーズ代表取締役社長岩崎俊一郎 名商大ビジネススクール教授慶應義塾大学名誉教授磯辺剛彦( モデレータ) 【チラシ】 チラシはこちら【申込方法】 お申し込みはこちら 申込〆切:2月11日(火)正午 ※定員になり次第、受付終了とさせていただく場合がございます。 【運営事務局】PwCコンサルティング合同会社(担当:沼・千葉・伊藤・野澤・長岡・山本)E-mail:jp_cons_meti_chukenkigyo-mbx@pwc.com

ノウハウはゼロ、失敗続きの新規事業をいかにして成功に導いたのか。
エムケー精工・キーマンの手腕に迫る

深刻な人手不足や産業構造の変化に直面する日本において、中堅・中核企業の成長戦略が問われている。しかし、経営資源に限りがある中堅企業が、既存事業の枠を超えて新規事業に挑戦することは容易ではない。長野県千曲市に本社を構える機械メーカー・エムケー精工は、主翼を担ってきた製品の市場が成熟化してきたことからビジネスとしての将来性を危ぶみ、かねてから研究を進めていたAIとファインバブルの技術を応用した新規事業を立ち上げた。それまでとは異なる分野での挑戦の成功は、会社にとって新たな柱となりうる製品を生み出しただけでなく、社員に刺激を与え、意識変革にまでつながったという。一連のプロジェクトについて、同社の取締役常務執行役員 商品開発研究所長で、新規事業の営業を担う子会社のAZx(エイザックス)で代表取締役社長を務める千葉和樹に話を聞いた。 市場が成熟化し、新規事業の必要性を感じていた エムケー精工は長野県の北部、千曲市に本社を置く電機メーカーだ。1948年の創業当初は瓶の王冠などの製造を手がけていたが、1952年にサイフォン式給油ポンプ「ダイヤポンプ」の開発により業績を拡大。現在では業界トップクラスのシェアを誇る門型洗車機やLED表示機などのモビリティ関連機器のほか、自動ホームベーカリーや保冷米びつなど生活家電の製造販売と輸出入を主な事業内容としている。同社の強みは製品の開発から販売、メンテナンスまでを一貫して管理できる体制にあり、顧客のニーズに柔軟かつ迅速に応えることで信頼を得てきた。しかし、これらの主力製品の市場は成熟しつつある。例えば、門型洗車機の販売先であるガソリンスタンドはこの20年間で40%以上減少。燃費改善や脱炭素の取り組みが進むことでガソリン需要が落ち込んでいることや後継者不足の問題から、この傾向は今後も続いていくと見られている。また、生活家電においては、大手電気機器メーカー数社が市場の大半を占めてしまっている。千葉曰く「当社がどんなに優れた製品を開発・販売しても、全国レベルのブランドにはとても敵わない状況」だ。こうした背景から、新規事業の立ち上げが喫緊の課題となっていた。 既存事業にもいかせる、新規事業の技術とは? そこでエムケー精工が新規事業として始めたのが、ウォッシングソリューション事業とネットワークカメラソリューション事業だった。ウォッシングソリューション事業では、従来は機械洗浄が困難といわれてきた洗浄物の課題を解決する製品を2021年から販売。具体的には、キクイモや生姜、里芋といった根菜などを洗い上げる「二流体根菜洗浄機」と、温水で農機洗浄ができる「農機洗浄用バリアブルガン」の2つだ。 二流体根菜洗浄機 そして、ネットワークカメラソリューション事業では、主に自治体や建設業、農業に向けて防犯・監視カメラサービスを2022年より展開。これは、高画質カメラをレンタルし、必要な映像だけを再生・ダウンロードできるデータ通信プランを低価格で提供するサービス。 ネットワークカメラソリューションで提供している防犯・監視カメラ これらの新規事業を支えているのが、2018年頃から研究を始めたファインバブル(※)とAIの技術だ。研究は具体的なプロダクトのアイデアがない段階から進められ、今後の需要を見込んだ取り組みだったという。「AIは現代社会において欠かせない技術であり、この研究は必須だろうということで着手しました。一方のファインバブルは、汎用性が高くさまざまな分野での展開が期待できたことから始めた研究でした。研究・開発が順調に進めば、新規事業のみならず、モビリティ関連機器や生活機器など、既存の事業にも活かせるかもしれないと思ったのです」 千葉和樹|エムケー精工株式会社 取締役常務執行役員 商品開発研究所長/株式会社AZx代表取締役社長 ファインバブル:直径0.1mm以下の小さな泡。洗浄効果が高く、水と空気のみで洗浄できるので環境負荷を低減し、さらにランニングコストが非常に安価というメリットがある。その他の活用法としては、例えば水産業では鮮魚の酸化と細菌増殖を防止し、長期間の鮮度保持が可能にするといった効果を持つ 一歩先の未来を見据えた戦略が重要 そもそも千葉は、新規事業をスタートさせるにあたりどのような戦略を立てていたのか。2018年以前のエムケー精工が抱えていた構造的な課題から紐解いていきたい。前職である日本電気では、世界で最初にIEEE1394(FireWire)やUSBをPCに搭載するプロジェクトなどを統括。そうして千葉がエムケー精工に入社したのは、2017年のこと。新規事業の企画・管理の経験を買われていた千葉は、まずは社内の研究・開発・製造の状況を把握することから始めた。当時のことを次のように振り返る。「入社したときには、すでに新製品を企画・開発する組織が設けられていましたが、多大な時間とお金、労力をかけて試作しても、その企画のほとんどが既存事業部に扱ってもらえないまま頓挫していました。違う製品を新たに開発しても、同じことの繰り返し。そのうえ、ユーザーの課題解決を図るものでもなければ、自社の得意な技術を利用しているわけでもないものばかりをつくっていました。『マーケットイン』という発想をまったく持ち合わせていなかったのです。こうした状況に危機感を抱いた千葉は、入社から1年後の2018年に商品開発研究所長に就任すると、組織とミッションステートメントのつくり直しに着手した。新製品開発のための従来の組織を廃止し、「新規事業開発部」を設立。製品企画と試作のみならず、市場分析やプライシング、チャネル開拓、プロモーション活動といったマーケティングミックスのすべてを手掛ける組織として再建した。立ち上げ当初、チームに配属された社員はわずか3〜4人のみ。新規事業の立ち上げやマーケティングの知見を持つ者もいなければ、コア技術もなく、ほぼゼロの状態からのスタートだった。千葉は自ら先頭に立ち、OJT指導をしながら新規事業開発部の取り組みを押し進めた。それでも足りない人的リソースは、大学関係者とのディスカッションによるアイデア創出、営業支援会社とのパートナー契約など、外部連携を積極的に進めることで補った。「社内のメンバーや外部連携先との関わりの中で私が徹底したことがあります。それは、ロードマップを明確にし、価値観を共有することです。最初に私たちのコアミッションを『次世代事業の創出』と設定し、決してブレることのないこの価値観を日頃から共有していきました。次世代の中核事業につながる製品やサービスを次から次へと生み出せるような姿を目指しています」こうした一連の流れのなかで、新規事業の立ち上げのみならず人材育成の面でも大きな成果を得たと、千葉は話す。「新規事業への挑戦をOJTで実践したことで、人材育成につながり、ビジネスマインドを醸成できました。今では新規事業に関わるメンバーの誰もが、『技術的価値』を『経済的価値』に変えることを真剣に考えるようになりました。新製品を考えさえすれば、あとは社内の他の人間が販売してくれるという他人任せの体質だった頃に比べると、大きな成長です」 足を使い、徹底したヒアリングで開発した新製品 では、肝心の新製品開発はどのようにして進めていったのか。AIとファインバブルの技術研究とともに、力を入れたのが地域の農家へのヒアリングだった。「全国レベルの大手企業と同じ土俵で張り合おうとしても敵いません。ですから、新規事業は地域密着のビジネスからスタートすることにしました。長野県千曲市といえば農業が盛んです。そこで、市内の農家をまわり、業務上の課題やちょっとした悩みごとを聞いていきました」先述のウォッシングソリューション事業で展開している二流体根菜洗浄機は、キクイモや生姜など、表面がでこぼこしていて表皮が柔らかい根菜類の出荷洗浄に関する悩みを解決する製品だ。農家では、寒い冬に手作業でこれらの野菜を洗浄していたが、農業従事者の高齢化に伴い、こうした過酷な労働環境の見直しを迫られていた。また、若者の農業離れも深刻な問題となっていたのである。二流体根菜洗浄機は、こうした課題を克服するための製品として開発された。 ファインバブルが発生した水槽のなかで、水流と気泡の2つの流体で生じる大きなうねりが、根菜の隙間の奥まで入り込んで汚れを落とす もう一方のAIを用いたネットワークカメラソリューション事業における防犯・監視カメラサービスも、農家へのヒアリングからヒントを得た事業だ。長野県はシャインマスカットなど単価の高い農作物の名産地だが、こうした高級果樹園や資材置き場などの現場では、盗難被害が相次いでいた。しかし、高額な監視カメラを購入する費用はない。そこで生まれたのが「トップクラスの品質を、手が届く価格で」というコンセプトだった。カメラをレンタルし、必要な映像だけを再生・ダウンロードできるデータ通信プランを低価格で設定することで、農家のニーズに応えたのである。このサービスは自然災害の監視、犯罪捜査、働き方改革に伴う遠隔監視ニーズなど、農業以外の現場への展開も視野に入れて開発された。「ファインバブルとAIは、さらに幅広い分野で展開していける技術です。すでにローンチしている製品やサービスは、いわばプロトタイプのようなものとも位置付けられます。新規事業立ち上げのために研究を始めた技術の第1号製品であり、これを社会に実装させて改善・進化を重ねながら、さらに新たなビジネスへと発展させていきたいと考えています」と、千葉は今後の展望を語る。 目下の課題は人材の確保 また、新規事業開発部の発足から約1年が経ち、新規事業立ち上げの基盤が出来始めた2019年5月になると、千葉は営業法人としての子会社AZxを設立した。子会社設立の狙いを、千葉は次のように話す。「親会社の事業とは異なる性質の製品・サービスを、異なる販売チャネルを使って、異なる市場に届けるわけですから、変化に強く迅速な意思決定ができる体制にしなくてはなりません。そこで、企画・開発機能を親会社であるエムケー精工に残したまま、AZxをマーケティング・営業のための子会社として機能させ、両者を同じ役員が管掌する体制としました。親会社の開発力を活かしながら、親会社とは違うルールで迅速に意思決定できるようにしたのです。新規事業開発部を発足してから売上げが立つまでには3年程度かかりましたが、わずか3~4名の技術者のみで、企画、技術開発、製品開発、チャネル開発、これらすべてをゼロからスタートしたことを考えると、想定以上に早く事業化できたのではないでしょうか。売上も年々倍増しています」目下、大きなネックとなっているのは人材確保だ。これは、エムケー精工のみならず、地方の中堅企業のほとんどが直面している経営上の大きな課題だ。東京の大企業で勤務した経験もふまえて、千葉はこう語る。「労働人口が減少する状況は今後も容易には変わらないでしょうから、自社単独で成長し続けることには限界があります。このような経営環境において企業が安定的に成長していくためには、『両利きの経営』と『外部資源の活用』が重要になります。前者は、主力事業の拡大・強化だけに満足することなく、新規事業への挑戦をバランスよく継続し、事業ポートフォリオを絶えず見直すことです。後者は、戦略パートナーとの協業によって新市場開拓や新技術獲得に取り組み、自社の成長へと繋げていくことです」最後に千葉は、社内のチームの連携や、外部パートナーと手を組みながら新規事業を成功へと導いていくための極意を明かした。「事業のポートフォリオを明確にし、コアミッションを核とする価値観を常に共有することです。これらを理解し合える相手でなければ、社内のチームには歓迎できないですし、外部パートナーとして手を組むこともできません。これさえブレなければ、後のことは何とでもできると思っています」

100年企業を変えたゼロからの新事業──枠を超えて挑戦する大崎電気工業の生存戦略

深刻な人手不足や産業構造の変化に直面する日本において、中堅・中核企業の成長戦略が問われている。しかし、経営資源に限りがある中堅企業が、既存事業の枠を超えて新規事業に挑戦することは容易ではない。 そんな中、創業100年を超える計測制御機器メーカー・大崎電気工業は、主力製品のスマートメーター事業の先行きに危機感を抱き、まったく未経験の分野であるスマートロック事業に参入。5年の歳月をかけて成功に導いた。 限られた経営資源の中で、いかにして新事業の立ち上げを実現したのか。社内の反発を乗り越え、パートナーシップを構築し、組織の意識改革につなげるまでのストーリーを紹介。新規事業に挑戦しようとする中堅・中核企業にとって、具体的な示唆となるはずだ。 順調な経営の背後に迫っていた危機感とは 大崎電気工業は、1916年創業の計測制御機器メーカーだ。主力製品は電力量計。1950年以降は東北、中部、北陸、関西、中国、九州、東京電力への積算電力計の納入を開始するなど、全国規模で事業を展開してきた企業である。2010年代に電力小売全面自由化などを背景に電力をデジタルで計測する「スマートメーター」の普及が進むと、大崎電気工業も同分野での製品生産を開始。そのほか、集中自動検針装置、光通信関連装置、配・分電盤、検針システム機器、計器サービス事業なども手掛けながら、順調な経営を続けてきた。近年、テクノロジーの進化とともに同社が推し進めてきたのが、ホームIoTサービス「home watch」だ。これは、スマートフォンやタブレットのアプリケーションから、家電製品を操作したり、温度や湿度、人の有無などといった部屋の状態の確認ができるというもの。さらにAI機能により、気象予測データや過去の使用電力量をもとに適切な電力目標値も自動で設定される。このサービスを導入することで、各家庭では快適性とエネルギーの有効活用を両立できるうえ、不動産管理会社にとっては物件の付加価値が向上。このようにして、大崎電気工業は電力や住宅に密着した事業を拡充させてきたのである。その大崎電気工業が新事業として2018年から販売を開始したのが、スマートロック「OPELO」だ。これは、スマートフォンやICカード、パスワードを部屋の鍵として施錠・開錠でき、入居者にとっては従来の物理鍵が不要で、紛失リスクがなくなり利便性も向上。不動産管理会社にとっても省人化および業務時間短縮と入退去時の物理鍵交換等の非効率な業務を解消できるソリューションだ。販売開始から現在までに累計30万台以上の導入が進み、現在ではスマートメーターに次ぐ大崎電気工業の主力製品となった。 OPELO なぜ、電力量計を主力製品としてきた同社が鍵・錠前の事業に着手したのか。一見、唐突にも思えるが、ここに至るには明確な背景と契機があった。 まず、主力製品のスマートメーター事業の天井が見え始めていたこと。市場を見てみると、沖縄を除き、日本全国の全世帯にすでにスマートメーターの導入が完了している。10年に1回の機器交換が法律で定められているため定期的な売上は見込めるが、人口が減少するなかで将来的な市場縮小は想像に難くない。そこで、2015年頃から社内では新事業の検討が始まっていた。同時に注力していたのが、不動産管理会社とのネットワークづくりだった。その目的は、前述の「home watch」の事業拡大。そのなかで賃貸大手不動産会社からある相談を受けたことが、スマートロック事業をスタートさせるきっかけになった。その内容は「自分たちの業務の効率化と、入居者の利便性向上のために、デジタル式の鍵をつくってほしい」というものだった。 成功の秘訣は熱意をもったエース級の人材たち 大崎電気工業にとって鍵・錠前に関する事業はまったく未開の分野だ。だが、ニーズがあるとわかっているのであれば、挑戦する価値がある。しかも、不動産業界という大きなマーケットも見えている。そこで新事業スタートへの舵取りをしたのが、ソリューション事業 副事業部長 兼 事業統括部長の小野信之だった。小野は前職で新事業の企画・立案を担当する東京電力の企画部に在籍し、社内にあるリソースの洗い出しやパートナー探しなどに取り組んできた。そうした経験をかわれて、大崎電気工業に入社したのが2015年のこと。 「社内に複数の機能を持つ大企業とは違い、当社はリソースも資金も限られている中堅企業です。まずは、自社には何もない、一から始めるんだ、という認識でスタートしました。また、新事業に資金を投入できる大手企業でさえ、数字を出すまでに3年はかかることが多いなか、当社ではスモールスタートになるため、5年は踏ん張らなくてはいけないと予想していました」 小野信之|大崎電気工業株式会社 ソリューション事業 副事業部長 兼 事業統括部長 いわば、ほぼゼロの状態から長期戦を見越してスタートしたスマートロック事業。まず着手したのが、パートナー探しだった。数社との話し合いを経て、遠隔操作錠やリモコン錠のOMD開発・生産を手がける企業と連携することを決めた。 5年という長期的なプロジェクトを見越していながらも、最も重視したのがスピード感だった。例えばソフトウェア開発においては、大崎電気工業にはスマートロックと連携するアプリケーション開発のノウハウがなかったため、外部委託して製品の開発を急ぎ、その後、社内でプログラマーを登用して内製化するように。「とにかく早い段階でプロトタイプをつくり出し、製品のイメージを掴みながら調整を重ねたことが功を奏した」と小野は振り返る。 そのほかにも、成功の要因となったいくつかのポイントがあった。プロジェクトを始めるにあたり、まず新事業推進室を開設し、約10人の少数精鋭で強いチームをつくったこと。メンバーの集め方も、小野には戦略があった。 「社内の各部署からエース級の人材を集めました。特に重視したのは、会社を成長させたい、新事業を成功させたい、という強い思いがあるかどうか。マーケットの見方、パートナーの探し方など、大切なことは全部私が指導するから、まずはモチベーションの高い人に集まってほしいと思いました。まったく未知のことを始めるにしても、思いがあれば人は成長しますから」 同時に開設したのが、オープンイノベーションのためのラボ「NEXT 100teX Lab」だった。大崎電気工業が持つ電力計測・制御機器の開発技術をベースに、大学研究室や自治体、ベンチャー、その他アドバイザーとして参加する有識者たちと連携し、多い時期には1年間で70社以上と協議し、そのうち7〜8件がプロジェクトとして組成された。 反発を乗り越えて生まれた社内改革 これらの取り組みにより、思いがけない効果も得られた。パートナー探しのために新事業の計画を社外に広く発信したことで、社外から見た企業イメージの変化や、立ち上げ前と異なるタイプの人材の採用につながったのである。 だが、すべてが順調だったわけではない。まったく新しい取り組みを始めたことで、社内から反発も生まれた。安定志向の社員が多く、現場から十分なサポートを得られなかったことは想定外だったと小野は話す。 「エース級の社員を引き抜かれた部署は困惑していましたし、スマートメーターに注力していた社員のなかには『新しい事業を始める必要はない』と思っている人もいた。しかし今になってみると、新事業推進室に異動してきた社員が成長して元の部署に戻ることで既存の事業に貢献できたり、あるいは新事業立ち上げの経験が他の業務に役立ったりして、社内改革にもつながりました」 では、実際に新事業に携わった社員はどのように感じていたのか。立ち上げメンバーの一人、ソリューション事業部 事業統括部 スマートソリューション部長の土屋武史はこう振り返る。 「新卒で大崎電気工業に入社し、アナログの時代からずっと電力量計の営業を担当していました。自分が任された地区ではトップシェアを取ることを目標に努力し、成果も出していましたし、担当業務への愛着もありました。だから、新事業の立ち上げの際に声をかけてもらえたことは嬉しかったけれど、元の業務を続けたい気持ちは捨てきれませんでした。新事業を通じてパートナーと協業したり、マーケットを知るために社会の動向を把握したりすることは、それまでの業務にはなかったまったく新しい経験。はじめは戸惑いましたが、やがてそれがいい刺激となり、自分の成長にもつながったと感じています」 土屋武史|大崎電気工業株式会社 ソリューション事業部 事業統括部 スマートソリューション部長 社員の意識の変革について、小野が話を続ける。 「かつての大崎電気工業にとって、取引先は電力会社のみでした。ところが新しい事業やプロジェクトを検討するとなると、自ずと電力会社以外の様々な企業の方と付き合うことになります。すると、市場や消費者にも目が向くようになり、社会にどんな課題があるのかを探しに行くように。大崎電気工業はこれまで電力会社ばかりを見てきたけれど、エネルギー業界全体を見渡せるようになってきたな、という手応えを感じています。この視野の広がりが、今後の新たな事業の創出にもつながっていくはずです」 「新事業の基盤づくりに注力した最初の1年はとにかく辛かった」と小野は話すが、2022年には三菱地所とスマートホーム事業領域で業務提携するなど、当初の予測通り5年ほどで新事業展開の効果が見え始めた。その後もさまざまな企業と業務提携しながら現在に至るが、まだ課題は残る。その一つが情報発信やPR活動だという。 「もともと社内に広報部もなかったほどで、当社には製品のプロモーション活動に関するノウハウがありませんでした。スマートメーター事業にはそれが不要だったから広報活動も行っていなかったわけですが、スマートロックは広く認知を取らなければならず、戦略的な打ち出しが必要でした。新しいプロジェクトの発表のタイミングやシナリオづくりといった部分はまだ十分とは言えず、これから強化していきたい部分です」 中堅企業こそ新規事業に挑戦を あらためて、今回の新事業・スマートロックの成功の要因となったのは何だったのか。それは、ニーズをキャッチし、具体的にどんなプロダクトが求められているかを的確に把握すると同時にマーケットを絞り、実際の運用に至るまでのすべてを要件定義できたことが大きかったと小野は話す。そして、何より重要なのがリーダーの存在だ。 「会社を変えたいという強い思いと、業界の知識とネットワークを持っている、リーダー的な役割を担うキーパーソンが新事業には不可欠です。新しい事業に携わりたいと考えている人材は大手企業の新事業部門か、あるいはベンチャーを志向することが多いのが現状ですが、そこをなんとか中核・中堅企業にも引っ張ってこなくてはいけない。そのための人材採用・人材育成が一番の課題で、その解決のためには企業の努力だけではなく助成金など外部からの支援も必要になると思います」 最後に、今後の展望を小野に聞いた。 「今後の事業の進め方は2つ。まず、スマートロック事業の拡大。今までは賃貸業界への導入を進めてきたので、今後は横展開して異なるマーケットに進出していきたいと考えています。もう1つはエネルギー業界の中で新たな課題を解決したり、価値を提供したりすること。例えばスマートロックは、物理的な鍵がなければ施錠できないことが当たり前だった社会のなかで、鍵のない世界を作り出しました。同じように、今まで常識だと思っていたことを変えて、日々の暮らしやビジネスがもっと快適で安全なものになるような事業を創出していきたいと考えています。特に少子高齢化によって打撃を受ける業界に対して、IoTの力で省人化や遠隔化を進められるような事業を展開していけるよう、現在も着々と準備を進めているところです」 知見とネットワーク、そして熱意を持った圧倒的なリーダーが、社内外に向けて明確なビジョンを見せることが新事業の成功には欠かせない。大崎電気工業の新事業の取り組みからは、そんなメッセージが伝わってくる。

セミナー・イベント情報

プラットフォーム⼀覧

「中堅・中核企業の経営力強化支援事業
(プラットフォーム構築による新事業展開等支援事業)」の
地域・テーマ別のプラットフォームの
取り組みをご紹介いたします。
※プラットフォームへの参加は、
地域の中堅・中核企業を対象にしています。


地域型プラットフォーム

“支援プログラム”より各プラットフォームの
取り組み内容をご覧いただけます。
また、“参加・問合せ”より各プラットフォームに
問い合わせいただけます。

北海道エリア(北海道)

北海道の未来を切り拓く!新事業創出プラットフォーム

東北エリア(青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島)

とうほく新事業支援プラットフォーム

関東南部(神奈川、静岡)

静神オープンイノベーションプラットフォーム

関東北部(群馬、栃木、茨城)

北関東地域新事業展開プラットフォーム

首都圏(埼玉、東京、千葉)

首都圏オープンイノベーションエコシステム

甲信越(新潟、長野、山梨)

INTRE PATH JAPAN 甲信越

北陸エリア(石川、富山)

北陸中堅・中核イノベーションプラットフォーム

中部エリア(愛知、岐阜、三重)

中部 新事業展開・創造プラットフォーム

中部エリア(愛知、岐阜、三重)

新規事業開発に挑戦するための人材開発プログラム

近畿エリア(滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山、福井)

関西エリアにおける協業支援プラットフォーム

中国エリア(鳥取、島根、岡山、広島、山口)

後日発表予定

四国エリア(徳島、香川、愛媛、高知)

四国 HOWTO 新規事業開発

九州エリア(福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島)

Kyushu Innovation Boost Platform

沖縄エリア(沖縄)

ALL OKINAWAプラットフォーム


テーマ特化型プラットフォーム

“支援プログラム”より各プラットフォームの
取り組み内容をご覧いただけます。
また、“参加・問合せ”より各プラットフォームに
問い合わせいただけます。

医療・福祉・健康分野×関東・東北・中部・近畿・九州

医療・福祉・健康 新事業支援プラットフォーム

繊維×関東・中部・近畿・北陸・中国 他

〜サステナビリティグローバルネットワーク〜信州大学繊維学部×AREC

半導体・デジタル×関東地域を中心に全国

半導体・デジタル新事業プラットフォーム

医療機器分野×近畿(関西)

医療機器開発・ビジネス化推進プラットフォーム

農業×全国

アグリビジネス新規参入支援プラットホーム

半導体×九州

九州を中心としたサプライチェーン強靭化

第二創業支援×全国

次世代リーダーによるInnovaition Driveプラットフォーム