未来への共創:
地域の中堅・中核企業の挑戦を
後押しする支援プラットフォーム

地域の挑戦を、
日本の新しい地平線に。

地域経済の要、中堅・中核企業を支える
連携ネットワーク。
アドバイザリーやネットワーキングなど、
分野を超えた多様な知見により
地域からの挑戦を後押しし、
日本全体に新たな活力をもたらします。

地域の中堅・中核企業支援
プラットフォーム事業(本事業)について

経済産業省では、地域経済への波及効果が大きく、
高い成長が見込まれる地域経済の牽引役として、
地域未来牽引企業を選定・支援してきました。

令和6年、地域の中堅・中核企業
さらなる成長支援のため、
新規事業展開等を支援する地域・テーマごとの
支援プラットフォームを全国各地に立ち上げます。

具体的には、地域企業の皆様がご参加いただける
地域・テーマ別のプラットフォームを全国に展開し、
セミナ―の実施、支援機関等との
ネットワーキング支援等を行います。

本WEBサイトでは、地域企業の皆様を対象にした
日本各地のプラットフォームの支援プログラムを紹介するほか、
各プラットフォームにて開催される
イベント・セミナー情報を随時掲載します。
地域企業の皆様のプラットフォームへの
ご参加をお待ちしております。


支援プログラムの対象企業
(地域の中堅・中核企業)について

各プラットフォームの支援プログラムの対象となる企業は
地域未来牽引企業のうち、
以下いずれかを満たす企業です。
※みなし大企業を除く
(イベント・セミナーにはその他の企業や支援機関の皆様も
ご参加いただける場合がございます。
詳細は各プラットフォームにお問合せください)

地域未来牽引企業
  1. ①直近3年間のうちいずれかの年度で、年間売上⾼が100億円以上
  2. ②直近3年間のうちいずれかの年度で、従業員数が中小企業基本法に定める常時従業員数(製造業その他: 300 人、卸売業・サービス業: 100 人、小売業: 50 人)を超え、2,000 人以下
  3. ③直近年度の年間売上⾼が70億円以上かつ前年度からの
    売上⾼成⻑率が10%以上

※ みなし⼤企業は以下のいずれかに該当する事業者を指します。

  1. ①同⼀の⼤企業が、株式を1/2以上所有している
  2. ②複数の⼤企業が、株式を2/3以上所有している
  3. ③⼤企業の役員または職員を兼ねている者が、
    役員総数の1/2以上を占めている
  4. ④①〜③に該当する企業が、株式の全てを所有している
    ※孫会社を除く
  5. ⑤①〜③に該当する法⼈の役員⼜は職員を兼ねている者が、
    役員総数の全てを占めている ※孫会社を除く

ここでいう⼤企業とは、常時従業員数が2,000⼈を
超えるものとする。

CONTENTS

全国21拠点のプラットフォームが切り拓く成長戦略。中堅・中核企業支援事業 初年度報告会 レポート

経済産業省では地域の中堅・中核企業の成長促進のため、地域・テーマごとにプラットフォームを全国に21拠点立ち上げ、新規事業の展開等を支援しています。初年度の取り組みの総括としてシンポジウムを開催し、本事業の支援によって生まれた好事例を紹介しました。また、シンポジウムの後半ではトークセッションを行い、オープンイノベーションや多様なステークホルダーとの協働による企業成長について、事例やノウハウを紹介。今後の中堅企業や支援機関の在り方について、方向性を提示した。 中堅・中核企業を支援するプラットフォーム、その役割とは 第一部の冒頭は、経済産業省 地域経済産業政策統括調整官の宮本岩男氏による開会の挨拶が行われた。 宮本氏は政府の中小企業支援について、企業が成長すると支援が急減することが課題になっていると現状の問題点を指摘。この課題解決のために、従業員2000人以下の企業を「中堅企業」と定義し、関係省庁が支援策を充実させる動きが開始した。 宮本岩男|経済産業省 地域経済産業政策統括調整官 続いて今年度の実績について触れ、「経済産業省による中堅企業支援の初年度で、全国21の事業者が支援活動を展開し、284社がセミナーに参加、126社が具体的な支援を受けました」と成果を報告。最後に「政府は今後も中堅企業支援を強化し、地域経済の成長を促進する方針を示しています」と今後の展望を語り、挨拶を締めくくった。 続いて、PwCコンサルティング合同会社の千葉史也氏が、中堅企業の成長支援に関する取り組みについての説明を行った。 千葉氏はまず中堅企業の役割について再定義する。「従業員2,000名以下で大企業と中小企業の中間に位置する企業であり、成長力・変革力・社会貢献力が期待されています」と述べ、経済産業省が中堅企業の新分野進出や事業拡大の重要性を強調していることにも言及した。 千葉史也|PwCコンサルティング合同会社 本事業では、中堅・中核企業の新事業展開や経営力強化を支援するためのプラットフォームを全国21拠点に設置しています。地域型は北海道から沖縄まで14拠点、テーマ型は医療、製造、半導体など特定分野に特化した7拠点が設けられました。プラットフォームの主な役割として、企業の課題把握と未来志向のリーダーシップ醸成によるマインドセット形成、新規事業の計画策定と社内外の橋渡しを行うコーディネート機能、社内リソース不足を補う専門家紹介や伴走支援などのソリューション提供の3点。 事業の成果については、2025年1月時点で84社が新事業計画を策定しており、今後さらに増加する見込みだという。千葉氏は最後に「この事業を通じて中堅企業の成長を支援し、新規事業の成功体験を積み上げることで、中堅企業のさらなる発展を促進していきます」と意欲を示した。 取り組み事例の紹介では地域型プラットフォームの運営事業者やテーマ型プラットフォームの運営事業者として5つの企業・団体が登場。各事業者のプレゼンテーションについては、以下の動画にて一部始終を公開している。

経営戦略の「見える化」できていますか? 事業成長の道標となる事業ポートフォリオのいろは

企業の持続的成長の実現、および新規事業の推進を支える重要な手段の1つとして挙げられるのが、事業ポートフォリオだ。しかしながら、その必要性を認識していなかったり、あるいは思うように検討が進んでいなかったりする企業は意外と多いという。また、事業ポートフォリオを活用していく際、大企業に比べて中堅・中核企業には固有の障壁・課題が生じやすいとも言われている。 そんななか「事業ポートフォリオを活用して数値でドライに経営を評価し、今後の方針をウェットに判断していくべき」と主張するのが、数々の中堅・中核企業にM&Aアドバイザリーや戦略コンサルティング業務を提供してきた株式会社Passione Group 代表取締役 CEOで公認会計士の熊谷元裕氏だ。経営資源は有限だからこそ、企業が所有する事業を数値で客観的に評価し、資源の最適配分の道を探らねばならない。その指針になるのが事業ポートフォリオなのだ。 では、事業ポートフォリオはどのように活用し、中堅・中核企業は大企業に比べてどのような点に注意するとよいのか。そのポイントを、熊谷氏に聞いた。 企業価値を最大化する事業ポートフォリオ、中堅企業で普及しない背景とは? 近年の経営環境の変化は目まぐるしく、経営戦略として新規事業に取り組むことが多くの日本企業にとっての課題とされている。そのうえ、2020年以降の新型コロナウイルス感染症の世界的な広がりにより、これまで以上に厳しい状況へと追い込まれてしまった企業も少なくない。こうした背景から、経済産業省は2020年7月に企業の持続的な成長を支援する目的で「事業再編実務指針」を公表。この中であらためて重要性が指摘されたのが、事業ポートフォリオの作成とその活用だった。 事業ポートフォリオとは、企業が保有する複数の事業を一覧化したもののこと。数多くの企業に経営コンサルティングを行ってきた熊谷氏は、事業ポートフォリオを作成することの価値について次のように解説する。 「中堅・中核企業のみならず、大企業であってもヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源は有限です。企業の持続的な成長を実現させるには、これらの限られた経営資源を自社の注力領域に効果的かつ効率的に配分していく必要があります。そして、そのためにはまず注力領域(コア事業)を特定すると共に、非注力領域(ノンコア事業)の在り方を検討しなくてはなりません。この分析を行い、一覧化したものが事業ポートフォリオです。経営学では、事業ポートフォリオを『企業価値を最大化するための経営資源の戦略的な最適配分手法』と定義しています」 熊谷元裕|株式会社Passione Group 代表取締役 CEO / 公認会計士 近年、大企業においては経営理念やビジョンとともに事業ポートフォリオを公開することが一般的になってきた。それに比べると、中堅・中核企業ではそもそも事業ポートフォリオの作成から進んでいないケースが目立つ。その理由のひとつとして、経営戦略を「見える化」することへの意識の低さが挙げられる。 「事業ポートフォリオを作成していない企業にヒアリングを行うと、経営者の多くが『自分の頭の中にあるから大丈夫』と答えるのです。特に、中堅・中核企業は一族経営やそれに準じた経営体制が大半で、こういった近しい間柄で構成している企業ほどこの傾向が強い。しかし、経営において最も重要なのは自身の頭の中にある戦略を言語化・可視化して全社に共有していくことです。企業の持続的な成長にはこれが欠かせません。明文化することによって自社の成長が促進され、さらにトラブルシューティングや次世代経営者の育成等の事業承継にもつながります。これは、事業ポートフォリオだけではなく中期経営計画でも同じことが言えるでしょう」 参考:経済産業省「事業再編実務指針 ~事業ポートフォリオと組織の変革に向けて~」https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/jigyo_saihen/pdf/006_04_00.pdf 衰退期に入った事業をどう扱うか? 事業ポートフォリオの活用法 下図は、経産省が「資本収益性と成長性を軸として事業評価を行うための標準的な仕組み」として「事業再編実務指針」に掲載した4象限フレームワークに対して、熊谷氏が資金の流れなどの解説を加えたものだ。この図をもとに事業ポートフォリオの活用法を学んでいこう。 事業ポートフォリオでは、「資本収益性」と「成長性」の2軸を起点に企業が保有する事業をAからDの4つに分類する。まず、Aは新規の成長事業。成長性はあるが収益化まではつながっていない事業がAに分類される。やがてAが成長すると、Bの主力事業へと移行する。成長性もあり、収益化もできている時期の事業がこれだ。Bが成熟していくと成長性がなくなる、つまり投資をする必要はなくなるが、収益性が高い事業になる。それがCの成熟事業だ。Cの成熟事業から生まれる資金をAの成長事業に投下していくことが、資源配分の基本的な考え方になる。 「事業には成長期・成熟期があれば、必ず衰退期も訪れます。それが、Dの低収益・低成長の旧来事業です。経営資源の配分方法を考える際、Dをどのように捉えるかが肝になる。そして、Dこそが中堅・中核企業固有の障壁が生じやすい領域でもあります」 もし自社がDの事業にとってのベストオーナーであるならば再構築し、そうでないならば売却か一部譲渡して資金繰りを検討していくことになる。それを客観的に判断するために大切なのが、「定量的に評価すること」だと熊谷氏が強調する。 「具体的には成長性・収益性・効率性の3つの指標で分析していきます。このなかで見落とされがちなのが、効率性。中堅・中核企業ではROIC、ROE、ROA(※)といった効率性指標への意識が低い傾向にあります。その原因のひとつとして、中堅・中核企業には未上場企業が多く、ステイクホルダーからの要求も少ないため、これらの指標を意識する機会が少ないことが考えられます。だからこそ、中堅・中核企業にとっては効率性を切り口にして自社の評価をしていくことが事業ポートフォリオの最初のステップになっていきます」 ※ROIC:Return On Invested Capitalの略。投下資本利益率を意味する財務指標。企業が事業活動に投じた資金からどれだけ利益を生み出しているかを示し、経営判断に役立てる。※ROE:Return On Equityの略。企業の自己資本に対する当期純利益の割合を示す財務指標。※ROA: Return On Assetsの略。総資産利益率を意味する。企業の経営効率を測る財務指標のひとつ。 問題となるのは、Dの事業にとって自社がベストオーナーでなかった場合だ。低収益・低成長の事業とはいえ、そこには必ず従事している人間がいる。それに加えて、中堅・中核企業では経営者と従業員の関係性が密接なことが多い。場合によっては、例えば結婚式などのライフイベントに経営者が招かれるといった距離感で、家族ぐるみの付き合いが築かれていることもある。そのぶん、従業員が時間も心も費やしてきた事業を閉じたり売ったりすることに対して、経営者は強い抵抗感を持ってしまう。そうなると、模範通りのポートフォリオマネジメントができなくなってしまう経営者が非常に多い。だからこそ熊谷氏は「ドライに評価しなくてはいけない」と主張する。 「経営判断として正しいと理屈ではわかっていても、感情がそれを阻害します。特に中堅・中核企業の場合、地域に雇用を生み出す役割を担うなど、地場を支える有力企業として存在している場合も多い。事業の譲渡や売却は雇用とも直結しますから、経営者は大企業に比べてよりウェットな意思決定を迫られます。そんなとき私が必ずお伝えするのが『数値でドライに経営を評価し、ウェットに判断・実行していくべき』ということです」 事業売却、撤退を覚悟した次は、その事業を牽引してきたキーパーソンへのケアを最優先すべきだと熊谷氏が念を押す。その決断に至った背景を丁寧に説明し、給与や福利厚生、今後の雇用といった処遇への配慮を示して心理的安全性を確保するべきだ。さもないと、事業売却・撤退が失敗に終わる可能性もある。実際に熊谷氏が関わった事例で、経営者が事業譲渡の意思決定をした際、キーパーソンとの意思疎通がうまくいかずその従業員が退職してしまい、事業を譲渡できなくなってしまったこともあったという。 「旧来事業とはいえ、そこに関与している方にとって売却や譲渡、撤退はショックなこと。傷つきます。私が先ほど『ウェットに判断・実行すべき』と言ったのはこのことです。あくまでも意思決定はドライに行わなければなりませんが、現場の人とはウェットに接していかないと経営はうまくいかない。そのバランス感覚が、経営者には求められているのです」 舵を切るタイミングを見失わないために、柔軟な事業ポートフォリオの見直しを また、事業ポートフォリオの定期的な見直しも欠かせない。基本的には年度ごとの見直しが望ましいが、業種や事業の成長見込みに応じて頻度は変えるべきである。例えば、小売業であれば毎月、研究開発・設備投資等を伴う製造業等であれば開発から販売まで多くの時間を要するので数年単位でポートフォリオを捉えていく、といった具合である。 「いずれにしても、継続的に事業の実態を把握していくことで選択のタイミングを逸することを回避し、適時適切に戦略オプションの検討・実行を行うことが肝要です」 なお、先述の「事業再編実務指針」では事業ポートフォリオの有効活用は「従来の不採算部門の整理といった議論を一歩進める」と記されている。収益性の高い事業であっても、自社の下で成長戦略の実現が難しい場合には、早期に切り出すことで持続的成長の実現を図ることが重要であるとの考え方を基本としており、長期の時間軸で自社がベストオーナーかどうかという観点から、柔軟かつ大胆に事業ポートフォリオの見直しに取り組むことを期待されている。 大企業よりもさらに資源が限られている中堅・中核企業こそ、事業ポートフォリオの効果が発揮されるはずだ。

強みを深堀りして新しい市場へポジショニングする。
中堅企業のブレない理念がグローバル市場を切り拓く

世界市場で日本のプレゼンスを取り戻すためには、中堅企業の力が今こそ必要だ――。 1990年代から中堅企業の研究を行い、中堅企業研究会の立ち上げを牽引した名古屋商科大学ビジネススクール教授(慶應義塾大学名誉教授)の磯辺剛彦氏はそう語る。中堅企業が経済活性化の核になると考える背景とは?そして、そのエンジンとなる「ミッションコア」の経営とは? 長年の研究と分析から見えてきた中堅企業の秘めたる力について聞いた。 研究から明らかになった、中堅企業のポテンシャル ――磯辺教授は2014年に「中堅企業研究会」を発足し座長を務められています。同組織は日本の中堅企業を調査対象として、経営状況や課題の把握、競争力研究、施策への提言などを行うことをミッションにしているとのことですが、どのような経緯で発足されたのでしょうか? 少し時代をさかのぼらせていただきます。私が流通科学大学で助教授になった1990年代中頃、最初に研究対象としたのが東大阪の中小企業だったのです。 ご存知のとおり、東大阪には国内はもちろん世界でもシェアトップを誇る中小メーカーが多数あります。もちろん中堅企業も多い。この地域の優れた企業の経営方法を研究することはとても興味深く、ライフワークとして調査・研究を行っていました。 そんなときに、アメリカのGE(ゼネラル・エレクトロニック)の金融部門であるGEキャピタルから連絡が入りました。「世界の中堅企業の研究をしているので、日本での研究を座長としてやってくれないか」との依頼だったのです。 そして2014年5月、早稲田大学教授の沼上幹氏、ライフネット生命保険創業者の出口治明氏、タニタ代表取締役の谷田千里氏、元中小企業庁長官の林康夫氏、そして私の5人で、中堅企業研究会を立ち上げたというわけです。 ――中堅企業に絞った研究は、珍しかったのではないですか。 おっしゃるとおりです。歴史をひもとけば、1964年に中村秀一郎先生(多摩大学名誉教授)によって『中堅企業論』という本は出されていました。当時は、日本はおろか世界でも、「中堅企業」という言葉が使われることはほぼなく、存在しないに等しい状態でした。 当時、経営学や企業研究の領域では、近代的な「大企業」と前近代的な「中小企業」の二重構造の対比で語られるばかりで、その中間にあたる「中堅企業」はすっぽりと抜け落ちてしまっていました。 ただ、GEキャピタルは「とくに日本の中堅企業の競争力は非常に高い」と評価していました。実際、日本の中堅企業を調査研究してみると、数字としてその強さが見えてきました。 中堅企業、つまり中小企業を除く従業員数2000人以下の企業の数は、日本の全企業において2%ほどしかありません。しかし、従業員数でいえば全企業の19%。そして、売上高では38%をも占めていたのです。中堅企業が国内経済において多大な影響力を持っていることがわかったのです。 磯辺剛彦|名古屋商科大学ビジネススクール 教授1981年慶應義塾大学経済学部卒業、株式会社井筒屋に入社。91年経営学修士(慶應義塾大学)、96年経営学博士(同大学)。流通科学大学商学部助教授、99年教授。2005年神戸大学経済経営研究所教授を経て、2007年慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授。2023年慶應義塾大学名誉教授。同年名古屋商科大学大学院教授。一般財団法人企業経営研究所理事長 ――中小企業や大企業と比べて、なぜ効率的に売上・利益をあげる中堅企業が多いのでしょうか? 研究会がまず注目したのは、中小企業や大企業とは「経営課題が異なる」ことです。 まずは中小企業と比較します。中小企業の経営課題で多いのは、圧倒的に「経営リソースが足りない」ことです。当たり前のことですが、すぐれた人材や豊富な資金が揃わなければ、商品やサービスの提供範囲は限られます。 大企業はリソースの制約からは解放されますが、成長を続けようとすると、どこかの段階で事業の「多角化」や「総合化」をせざるを得なくなります。つまり専業ではなくなる。個々の事業に人員も資金も分散するしかなくなってしまい、マネージメントや調整にも時間とコストがかかるようになります。 対して、中堅企業はその多くが「専業」であり、持てるリソースをひとつの事業に集中しています。高い技術やサービスを磨き上げながら、大企業ならば小さすぎてターゲットにできない狭い事業領域(セグメント)で勝負できます。 例えば、東大阪市に本社があるハードロック工業は好例です。日本古来のくさびの原理を応用した、「緩まない」ボトルナットを開発。一点突破で、絶対にゆるんではいけない新幹線などの高速鉄道や東京スカイツリー、長大橋といったインフラ用のボトルナットというニッチなセグメントで圧倒的なシェアを誇っています。国外にもその名は知られ、世界16カ国に代理店を持つほどの人気を博しています。 ――なるほど。政府は2024年を「中堅企業元年」と位置づけました。まさにそのような中堅企業の成長率の高さや国際競争力の高さを期待してのことでしょうか? そう思います。アメリカの『フォーチューン』誌が毎年発表している世界の売上上位企業「フォーチューン・グローバル500」で、2000年には日本企業が500社中104社を占めました。ところが、2024年には40社にまで減っています。 かつて、自動車産業や電機産業・電子産業が日本経済の牽引役でした。名の知られた大企業が占めていたわけです。ところが、今やそうした領域は市場が成熟し、新興国との競争も激しく、成長が期待しづらい状況です。 ひるがえって、中堅企業には「のびしろ」があります。しかも環境変化に適応する「柔軟性」も高い。勝てるセグメントに絞って、国内でも成長を続ける中堅企業は、実際に海外でも売上を伸ばしています。失われた30年と言われていますが、中堅企業においてはその間にも売上が落ちていない企業が多いのです。 「日本のものづくりは強い」などと言われてきましたが、より解像度を上げてみると、特定の特殊な技術や機能を深堀りしている中堅企業こそが強い。今こそ中堅企業の強みをサポートして、国をあげて強い中堅企業を増やしていくべきであると考えています。 優れた中堅企業に共通する「ミッションコア」とは? ――教授はそうした厳しい時代でも売上を伸ばせる中堅企業を「ミッションコア企業」と呼び、経営学の観点からその特徴を体系的にまとめられています。ミッションコア企業とは何か、あらためてご説明いただけますか。 ミッションコア企業とは、ミッションや経営理念を中心に置いて経営を行う企業のことです。 ミッション(使命)とは社会の不便なことや不安なことを解消する「組織が存在する意義」のことで、経営理念とは「意思決定の原則」を指します。優れた中堅企業に共通している特徴として、必ずこのミッションと経営理念が中心にあり、かつ最上位の行動原則であるということが研究を通じてわかってきたのです。 ――ミッションを優先する経営は、なぜ時代の変化に強いのでしょうか? 例えば、前出のハードロック工業のミッションは「アイデアの開発を通じ、ゆるまないネジをもって安全・安心を提供し社会に貢献する」です。 ミッションが社会への提供価値なので、技術はあくまでミッションを達成するための手段です。「ゆるまないネジのために、どんな技術があるのか?」「ゆるまないネジが求められる場所、産業はどこか?」といった具合に、柔軟に優れた技術を探し、取り入れ、広い視野で事業領域を探し出す。だからこそ、土木から公共交通、日本全国はもちろん東南アジアや東欧、南米に至るまで取引先を持ち得たのです。 しかし、多くの企業は、例えば「病院向けに/レントゲンを/直販する」といった具合に、自前の技術や製品を売り込むことが経営戦略の中心になりがちです。しかし、それでは万が一、病院向けのニーズがなくなったときに打つ手がなくなる。あるいはリースが当たり前になったときに、ビジネスモデルそのものが崩れ、立ちすくんでしまいます。強い中堅企業は、レントゲンという「もの」ではなく、身体に潜む病気やケガを見つけ出すという「価値」を戦略の軸にしています。 ――「ミッションが中心にある」と聞くと、ブレない価値観を持つことを指すようですが、むしろミッションを制約にすることで、幅の広い経営戦略を練り、結果として自由度の高い事業展開を実行できるわけですね。 そのとおりです。そうした可能性は、先にお話した東大阪の企業研究をした当初からすでに気づいていたことでもありました。 私が最初にインタビューしたのが、東大阪の山本光学でした。スキーゴーグルの『SWANS』ブランドでも知られている企業ですが、サングラスやスイミングゴーグルなどでも有名です。私は山本光学の経営者にインタビューをし、レポートには「同社の強みは表面処理加工や光コントロールの技術を使った曇らない光学製品にある」と書きました。 ところが、その原稿を読んだ社長から呼び出され、お叱りをいただきました。「我が社は1911年の創業から人々の『目を守る』ことを続けてきました。目を守ることを実現するためにセグメンテーションとターゲッティングにこだわってきた企業です。技術は単なる道具です」と。 目を守ることが求められる市場を徹底的に細分化して、それに合ったターゲットやビジネスモデルを考えながら、優れた技術を深堀りしてきた。まさにミッションコアな経営があったからこそ、今や100年以上の歴史を誇る世界企業になっているわけです。 ――中堅企業におけるミッションコアの経営は製造業以外でもあてはまるのでしょうか? もちろんです。たとえば鹿児島のスーパーマーケット、A-Z(エーゼット)はその最たるものです。 同社は経営理念に「利益第二主義」を掲げています。利益のためではなく、地域に住む方々のために何ができるかを考え抜く。そして鹿児島県の霧島市や南九州市、阿久根市など、過疎化が進み、シニア層が多い地域にばかり出店しているのです。 そして「過疎化が進んでいるからこそ何でも揃うように」と、売れ筋商品だけではなく、仏壇から自動車まで40万アイテム以上の商品を取りそろえ、その名の通り「AからZまで」の商品がある。 結果として「何でも揃う店」として多くのメディアにとりあげられて、商圏外からもわざわざ人が訪れる店に。もちろん、地域の方々からはかけがえのない頼りになる店として支持されています。 よく「顧客満足」と言われますが、ミッションコア企業が提供する商品やサービスは、「顧客感動」と呼ばれるような、満足以上の価値を生みます。だからお客様が離れない。 ミッションありきの利他の視点がイノベーションを創出する ――利他的な視点を土台に事業を築くことは、結果としてお客様との強固なつながりをつくり、売上・利益の向上にもつながるわけですね。 長寿企業となるのは、そうした「いい会社」だと思うのです。「よい会社」というよりも「いい会社」。そうした周囲に恩恵を生む行いを続けた結果として、売上や利益がついてくる。言い方を変えると、ミッションコア企業にとって、利益とは、その地域社会で商売することを許された「営業許可証」のようなものだと思っています。 ただ、もうひとつ、利他的な視点から事業を考えるミッションコア経営は、イノベーションが起きやすいともいえるのです。 ――どういうことでしょうか? 「どんな状況でもゆるまないネジを実現するためには、どのような技が必要なのか?」「利益第二主義を掲げて、過疎地域にあらゆる商品を揃えて売上・利益をあげるには、どうすればいいのか?」、ミッションコア経営はこうした社会課題を起点に、その方策を考える必要がでてきます。飛躍した斬新なアイデアやイノベーティブな発想や仕組みをひねり出さざるを得ないのです。得てして、イノベーションは制約から生まれるものですから。 ――なるほど。こうしたミッションコア経営を中堅企業が実践するためには、どのような取り組みや姿勢が必要でしょうか? ミッションと経営理念を明確にして、全社員がその方向を向くように「知らしめる」ことです。「伝える」のではなく、いろんな手段を使って「知らしめる」。これは「かんてんぱぱ」で有名な、長野県にある伊那食品工業の塚越寛相談役に教えていただきました。 『星の王子さま』で知られるサン・テグジュペリは「船を造りたいのなら、材木を集めるために人を集めたり、彼らに仕事や作業を割り当てたりするな。彼らに海の無限の広さへの憧れを教えよ」といった言葉を残しています。すべての社員に「志」を持ってもらうために、根気強く知らしめることが不可欠です。 ――市場の変化に柔軟に対応していく、その「柔軟性」を正しく発揮する難しさもある気がします。 それはあります。そもそも魅力的なリソースを持っているのに、それに気づいていない組織、経営者も少なくありません。自分たちの価値を低く見積もり過ぎているのです。 その意味で、視野を広くして、今いる場所とは違う業界、違う地域や国に飛び出して、外の目で自社を見ることはブレイクスルーにつながるかもしれません。 ハードロック工業と同じ東大阪市には、「錆びないねじ」で知られる竹中製作所があります。開発のきっかけは、アメリカで開催された世界海洋博覧会でした。日本ではこの錆びないねじをどこも取り合ってはくれず、海外市場に活路を求めたのです。結果としてアメリカの石油大手のエクソンモービルに認められて、エクソンモービルの海洋石油開発に使用される構造物に使われたのが突破口になり、世界中からオーダーが入るようになりました。別業界や海外の目に触れたほうが、思わぬ自社リソースの価値に気づけることは多い。 裏を返せば、中堅企業のすばらしい技術やサービスを求めている人は、皆さんが思っている以上に多くの地域や国、産業にあるのだと思います。大きなチャンスと成長の余白が、中堅企業にはあるのです。

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